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大阪地方裁判所 昭和43年(ワ)1508号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔決定理由〕第一 本案前の抗弁について

被告は、供託官の供託金取戻請求却下処分は行政処分であるから、原告がこれに対する抗告訴訟を提起しないで本訴において直接給付請求の訴を提起するのは不適法であると主張する。

然しながら、弁済供託は債務者が弁済の目的物を債権者のために供託所に寄託して債務を免れる制度であるから、供託者供託所との間の法律関係は対等の当事者間のもの(それが公法関係であるか否かをここに断定判示する必要はない。)であり、供託官の供託金取戻請求却下処分(拒否処分)は、当該取戻請求権の存否に影響を及ぼすものではなく、単に形式的な審査権しか有しない供託官のした支払拒絶の意思表示にすぎず、その支払拒絶を供託法(第一条の三以下参照)が特に行政処分の形式によるべきものとしたからといつて、取戻請求権の不存在が公定されるものと解する必要はない。又、本件訴訟が私法上の給付訴訟であるか、あるいは公法上のそれ(当事者訴訟)であるかをここに断定判示する必要もない。被告の右主張は採用できない。

第二 本案について、

一、原告が別紙目録(一)乃至(三)のとおり弁済供託をなし、昭和四二年七月二〇日大阪法務局供託官に供託金並に法定利息の払渡請求をしたこと、その請求は別紙目録(一)の供託金については同年五月一八日、同目録(二)の供託金について同年六月一日、同目録(三)の供託金について同月三〇日、いずれも消滅時効が完成しいてることを理由に却下されたことは、いずれも当事者間に争いがない。

右争いのない事実と<証拠>によればつぎの事実が認められる。

原告は訴外寺谷隆ほか五名から昭和二九年一月一日以降大阪市東区今橋五丁目一番地の丙地上木造瓦葺二階建店舗一棟を賃料一カ月金二万三、〇〇〇円取立払の約で借受けていたが、昭和三二年四月一二日右寺谷隆等は原告が右建物を訴外大化株式会社に無断使用させて賃貸借当事者間の信頼関係を破壊したとして右賃貸借契約解除の意思表示をした。

右解除の効力をめぐつて原告と寺谷隆等との間に紛争が生ずるに至り、原告は昭和三二年四月三〇日同月分の賃料として金二万三、〇〇〇円を寺谷隆に持参して提供したが同人はそのうち同月一〇日までの日割計算による賃料金七、六六〇円を受領しただけで残余の受領を拒絶した。そこで原告は同年五月一七日別紙(一)のとおり、同月三一日別紙目録(二)のとおり、同年六月二九日別紙目録(三)のとおりそれぞれ弁済供託した。他方、寺谷隆等は原告及び前記大化株式会社を相手方として大阪地方裁判所に家屋明渡請求訴訟(同裁判所昭和三二年(ワ)第一、八九九号)を提起し、昭和三八年四月二六日前記契約解除を有効とした原告等敗訴の判決言渡があつた。この判決を不服として原告等は大阪高等裁判所に控訴(同裁判所昭和三八年(ネ)第七二三号)したが昭和四一年二月一八日控訴棄却の判決言渡があつた。この判決を不服として原告等は最高裁判所に上告したが昭和四二年二月一六日上告棄却の判決言渡があつて、前記賃貸借契約の解除は有効とされ、従つて原告がなした別紙目録(一)乃至(三)の賃料債務の弁済供託はいずれも無効とされるに至つた。

二、そこで本件弁済供託の供託金取戻請求権の消滅時効の起算点について検討する。

さきに述べたとおり、弁済供託は債務者が弁済の目的物を供託所に寄託して債務を免れる制度である。供託の原因となつた債務の存否についての紛争、即ち訴訟の存する場合その解決によって債務の不存在が確定し供託者が免責の効果をうける必要がなくなるまでは供託者が取戻を拒否する旨の意思表示を被供託者に対してしているのであつて、供託所は供託物(金銭の場合はその価額)を保管する義務を供託者に対して負担する。従つて、紛争の存在する場合の金銭の弁済供託は供託者において供託を維持することの必要が消滅するまで(つまり取戻拒否の撤回をするまで)を不確定期限とする特殊の寄託契約と解するのが相当である。

このように不確定期限つき寄託契約が成立し、供託者は供託所に対し不確定期限付供託物保管請求権を有するのであるから、その期限が到来するまでは保管請求権は法的に保護されるべきものであり、不確定期限が未到来のままに供託物取戻請求権につき供託の時から消滅時効が進行すると解することは、供託物保管請求権につき一方で期限の利益を与えられながら他方で供託物取戻請求権の時効消滅と共に保管請求権の消滅を予定することになり不当である。

従つて、供託物取戻請求権も不確定期限付であつて、その消滅時効については、不確定期限が到来したときに始めてこれを行使しうるのであつて、それまでは権利行使に法律上の障害が存すると言うべきである。

被告は、弁済供託にあつては供託者は原則として何時でも供託物を取戻すことができることを強調するが、民法第四九六条による取戻請求権が供託者に与えられているとしても、弁済供託が不確定期限つきの寄託契約であることにかわりはないのであつて、その期限が到来するまでは供託者は取戻請求権を行使し得ないのである。

また、被告は、供託者にとつて供託を維持する必要がなくなつた時というような供託官にとつて不明確な時から消滅時効が進行すると解するならば、供託事務の処理上きわめて不都合な事態を生ずることになると主張するが弁済供託の制度は供託の原因となつた債務についての紛争が解決するまで供託所が供託物を保管することを当然予定しているのであつて、紛争、とくに訴訟の存否を明らかにする方法がないわけではなく。事務処理上の不都合はやむを得ないところである。

三、以上のとおり、弁済供託における供託物取戻請求権の消滅時効は、供託者において供託を維持する必要がなくなつた時から進行を開始するものと解せられるところ、前示のように、原告と訴外寺谷隆等との間の訴訟は昭和四二年二月一六日最高裁判所の上告棄却の判決言渡によつて原告敗訴に確定し、ここに、前示不確定期限が到来し、原告が本件供託を維持する必要はなくなつたのであるから、この時から本件供託金取戻請求権の消滅時効の進行が開始したものというべきである。

そして、原告が昭和四二年七月二〇日大阪法務局供託官に供託金並に法定利息の払渡請求をしたことは当事者間に争いがなく、本訴の提起が同年一一月二七日であることは記録上明らかであるから、本件供託金取戻請求権の消滅時効が未だ完成していないことは明白であり、被告の消滅時効の抗弁は理由がない。(山内敏彦 藤井俊彦 井土正明)

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